中国レポート
中国の民主化
9月の後半まで続いた今年の猛暑も、10月入って急激に平年並みになってどこかの国
の政治の身の変わりようと同調しているのかと思われるようなこの頃ですが、最近中国と日
本の関係を改めて考えさせられるような事件や、中国の政治の現状を改めて世界に知ら
しめる事になったノーベル平和賞に関する報道がされ、私ども中国での事業展開をしてい
る者も関係ない事では済まされない状況が近い将来訪れるかもしれないと、頭の中にしっ
かり入れておかなければならないと感じています。
尖閣諸島の日本の領海内で起きた中国漁船と海上保保安庁の巡視船との衝突事故
は、酒乱の船長の飲酒運転での暴走が発端だったという事で、一人の漁民の無知と中国
の利己主義経済的な方向性が表れた結果で、珠海の市場でブランド品等の偽物を堂々
と売っている環境が受け入れられてたり、法の網をうまく潜り抜けて事業展開をして大金持
ちになった者が、市場経済の勝者だと言わんばかりに振る舞う環境が一般化されている中
国の環境が引き起こした事で、尖閣諸島の領海問題とは全く関係ない事件がその後の日
本と中国の政府が取った対策のズレが問題を大きくしてしまったことだと勝手に解釈して、
中国に行くのなら気をつけてねと言われながら9月末から訪中したのですが、滞在中の約10
日間、この問題の報道や話題は全く無いに等しい状態で、いつもの通り中国政府が報道
規制をしているような感じを受けました。
9月の初めの頃は、中国のテレビ報道で中国の漁船の船長が日本の軍艦に拿捕された
事と、中国・台湾・香港の業民組合みたいな処が全アジアの業民組合として抗議デモを行
っている事等を報道していましたが、今回は全くその手の報道はされておらず、香港のテレ
ビが一部報道しているのを見た程度ですし、一般の中国人は全くこの手の問題には興味
がないのか、正確な問題を知らされていないから現状どうなっているのか解らないのか・・・・
と考えていたら、今回の中国の民主活動家の劉暁波氏のノーベル平和賞受賞のニュースと、
それに対する中国政府の行動や発言問題が日本国内で報道されて、中国国内ではこの
件が全く報道されていない事から、私たちは改めて中国の共産党一党独裁体制の問題点
を再認識しなければならないのではと感じています。
日本サイドから見れば。中国国内の経済界においては自由経済が浸透して、急激な発
展をしている中国ですが、現実には何をするにしても日本以上に規制があり、その割に法
の解釈には曖昧なところが多く、地域の役人の判断でかなりの違いが出ている事は間違い
なくそこに汚職や賄賂が横行する隙間が有り、前述した何をやってもお金が第一主義的な
風土を作り上げてしまった原因があるのではないかと思います。
今回のように、報道の規制は私たち外国人から見れば特殊な事だと思うのですが、中国
の多くの人々は共産党一党独裁を容認し、60年間にわたり真の自由が無いことを大きな
問題としてとらえる事もなく、1989年6月4日の第二次天安門事件のような民主化運動も
最近は経済発展の陰に忘れられつつあったのですが、今回のノーベル平和賞の問題は、
今後の中国の民主化の大きな流れを作るきっかけになるかもしれません。
しかしながら、中国の全国人民大会を国家の最高機関とした中国社会主義の仕組み
は、西側諸国の民主主義の仕組みとは根本的に違いがあり、その社会主義の法律と運
用が正確に行われているのか、真に人民の為になっているのか、西側の民主主義の仕組
みが正に民衆の為の政治として全てが運営されているのか等の議論は専門家に任せると
して、私たち平民はお互いの属する国家の基本的な政治の仕組みが違うことを理解した
上で、人間として正面から付き合って行くことが第一であると考えています。
今後、中国における民主化の動きは加速される可能性はあると考えていますが、少なく
とも私が経験している中国における30年間は、かなり表現の自由や報道の規制の緩和が
進んできていることは間違いなく、経済発展の速度に対して民主化の進行速度が少し遅
れて、中国社会全体に歪ができ始めているのではないかと考えています。
建国60年という歴史の浅い特殊な政治体制を持った国が、急激な発展を遂げてお金
持ちになって、そのお金の力で発展途上国や弱体化した歴史のある国に対して大国であ
るが如くの上目線での対応は、まさに現在の中国のお金が有れば何でもできると言う風潮
を代表するようにも感じてしまうのは、単なるひがみかもしれませんが、インターネットの発展
による情報の流入と、それを規制しなければならない現在の中国政府の事情と焦りみたい
な行動、今回のノーベル平和賞受賞問題のような世界各国からの人権問題に対する圧
力が、3000年の歴史を持つ中国の人民の代表である政府のトップが本当は真剣に考えて
いると思われる、民主化の軟着陸化を後押しするのではないかと期待しています。
2010年10月10日
車田 修