中国レポート
言葉(言語)の壁
今年の4月は日本においても異常気象なのか寒暖の差が激しく、10℃から25℃まで
急激に気温が変化するような状態が見られ、これは広東省地区の3月ごろの現象と同じ
で、最近よく言われているように日本の気候も温帯から亜熱帯に移行している結果なの
かもしれませんが、逆に広東省では例年に比べて今年の4月はなかなか暑くならない状
態が続いていました。
5月に入って、日本も例年並の気温になってきているようですが、中山市も蒸し暑くな
ってきており、そろそろ本格的な夏日になるのも近いと思われます。
今回は私どもが中国での合弁事業を始めて、これまでに多くの問題が発生して、なん
とかそれらを解決してきた中から、一番の障害の原因と考えられる言葉の問題に関して
少し話をします。
近代中国語の単語のうち、約70%は日本語と同じであることを、初めて聞かれる方
も多いと思いますが、同じ漢字の文化の中にあって、日本には中国から最初に漢字が
持ち込まれ、それが変化して「かなと漢字」の文化が定着したことから、当初中国から伝
わった単語の中には、現在も共通した漢字として存在することは簡単に想像できると思
います。
それ以上に日本の明治維新以降に西洋から伝わった現代用語と言われる外来語、た
とえば経済用語や思想文化的な用語や、新しく開発された技術的な物に関する用語
等は、当時の日本の学者が漢字に置き換えたものを、西洋文化の受け入れに遅れを取
った中国は大量の留学生を日本に送った結果として、その置き換えられた日本語(漢字
の単語)をそのまま中国で使用することが合理的だとの判断から、現在の日本語と中国
語の漢字の単語の共通化が進んだ原因とされています。
少し話がずれてしまいましたが、われわれが扱う産業用機械を中国で製造し始めた頃
は、単体の設備機械や簡単な装置だったこともあり、図面を持って中国を訪問してその
内容を説明して理解してもらい、見積もりをもらって製作依頼をし、完成したら検査に来
て日本に輸出するという単純な作業段階においては、通訳を通しての打ち合わせにおい
ても専門用語等の共通単語において発音は違うのですが、書くことで理解できる事が多く、
言葉の問題もあまり気にしたことありませんでした。
しかし、その後の合弁企業の立ち上げ後における個々の実務等の細かい打ち合わせが
必要な段階になり、日本・中国それぞれの担当者どうしの打ち合わせ等、日本の会社に
置いて日常的に行われている問題を全て通訳を通して話をしなければならない状態にお
いて、内容的にもどんどん複雑な状況の話になり、それぞれの感情をも含んだ会話になっ
ていく段階において、お互いにそれぞれの意思とはまったく反対の意思が相手に伝わってし
まう現象に数多く直面する事になっていきました。
その結果として、日本の担当者からは中国人は嘘つきで信用できないとの台詞や、中
国の担当者からは日本人は傲慢で押し付け的だと言うような発言が聞こえてくるのです
が、何故そういう事になるのか当初は解らず、それぞれの打ち合わせの席に同席して冷静
に聞いていると、日本の担当者は日本人に話しをするような日常会話的な言葉で説明
や要求を出しており、中国人の通訳する人が到底理解できないと思われる言葉で説明し
ているのですが、誰も問題が発生していることに気がつかないで、打ち合わせが進んで行く
事に気がついたのです。
お互いの担当者は、通訳が完璧に自分の意思を相手に伝えてくれていると言う前提に
まったく疑いをもたないで、物事が進められていく現象に思わず「ちょっと待った」を何回とな
く言って、その現象を理解させるのにかなりの時間を費やしたのですが、未だに完全には解
決できない事項として残っている事は否定できません。
通訳の能力にもよると思いますが、優秀な通訳でも決まった単語や言葉のフレーズを正
確に置き換える事はできると思いますが、言葉の微妙なニュアンスというような日本人にあ
りがちな曖昧な表現や、口語的な言い回しは時には逆の意味に捉えられたり、通訳が通
訳している事柄が、一つ前の会話の延長上の事を伝えているのに、今自分が質問した事
項の答えだと勘違いしてしまったり、等々、通訳を通しての会話はまず自分の言いたい意
思を通訳に完全に理解させて相手にそのままの言葉でなくても良いから伝えてもらう位の
気持ちで対応する必要があると考えています。
きちっと形を整えた一つの発言をきちっと通訳して進める方式であれば間違いや勘違い
等は少ないかもしれませんが、機械の試運転をしながらの会話や手直し事項の打ち合わ
せ等は特に気をつけなければならない事が多く、議事録等の書類による確認を徹底する
事が問題の発生を無くす最良の方法になっています。
同じ日本人同士でも間に人が入って話しを伝言する場合、多くの勘違いや間違いが発
生する可能性があることは間単に理解できるのに、相手の言葉がわからないから通訳を介
して話をする場合、逆に疑いを持つことを忘れてしまう・・・・何を通訳しているのか疑問を持
っても解らないので、そういう疑いは頭の中で無視される・・・・現象が簡単におきている事に
気がつく人はあまり多くないようです。
今後、海外との取引や旅行等で外国人と通訳を介して話す機会がますます増えてくると
思いますが、そのとき今回の話を思い出していただければより相手を理解する事ができると
思います。・・・・相手の国の言葉を自分が話すことができるようになることが一番の解決策
ですといいたいのですが、私自身が実行できていないので・・・・・。
2010年05月10日
車田 修
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